場面緘黙症の子どもから大人まで、支援方法をまとめてみた

建物を眺める金髪の女性

場面緘黙の治療方法について「認知行動療法」や「催眠療法」など、臨床心理士や言語聴覚士の間で色々な方法が紹介されている。

あいにく自分は専門家ではないので、これらの療法の手順や有効性については知識がないけれど、経験者目線で保護者や支援者はどんな援助をしたらいいか、本人にはどんな選択肢があるかまとめてみた。

 

場面緘黙の原因から考えられる対策

場面緘黙の原因は人それぞれで、発症の時期も異なるが、「場面緘黙児のほとんどは、それ以外になんらかの不安に関連した病名を診断されている」とwikipediaには書かれている。

実際、社会不安障害やうつ病、PTSDなどの精神疾患を併発している当事者は少なくない。

不安や緊張の原因には「失敗したらどうしよう」という自信のなさがあり、解決するには成功体験を積み重ねるのが一番良い。

失敗を繰り返すと自信のなさ、自己肯定感の低下や声が出づらくなるなどの身体症状にまで繋がるのに対して、成功が続けば逆に自信がつき、発言するときの声の調子や発言内容にまで変化を与える。

そういう意味では、学業でも仕事でも趣味でもいいので、成功体験を積めるような働きかけができれば緘黙の症状に関しても寛解することはあり得る。

緘黙の原因についてもう一つ、「発達障害」が関わっているケースもある。

これは例えば注意欠陥・多動性障害(ADHD)の場合でいうと、多動の症状があることで教師や他の生徒から注意をされたり、注意欠陥障害のため不注意ミスをすることで叱られたり、失敗体験が重なることで発言しづらくなったり周囲の輪から外されることに繋がり、ひいては緘黙に発展するケースが想像できる。

また、自閉症スペクトラム(ASD)の場合、自分の頭の中で考えていることを言葉に表すことや、耳から入ってくる情報を処理するのが苦手なこと、相手と自分の間に感覚的なズレが生じやすいことなどが特性として挙げられるので、会話に対する苦手意識から言葉数が少なくなり、緘黙に至るケースが考えられる。

これらの場合には、本人の特性に理解のある相手と信頼できる関係を築くことや、会話が噛み合わなくても否定されないなど、発達障害の特性も含めた支援があれば、発達障害と緘黙両方の症状に対してプラスな影響を与えることができるかもしれない。

他にも、最初は特定のテーマについて話してみて、そこから徐々に自由な会話にまで幅を広げていったり、初めは一人の支援者と少しずつ話すところからスタートし、時を見計らって親しい友人やその他のクラスメイトのいる状況でも話してみる「スモールステップ」の効果も認められている。

 

場面緘黙児の支援・環境改善

小学校の教室

上記の支援を場面緘黙の児童にするのは、今いるクラスでの生活範囲内だけでは難しい。

なぜなら、一つのクラスに30~40人の生徒がいる状況では、段階的にステップを踏んでいくことはできないし、本人が話せないことを批判したり、喋ったときに驚いたり大げさな反応をしないよう、クラス全体の協力を徹底する必要がある。

しかも1、2週間で変わる話ではなく、数ヶ月かそれ以上に渡る継続的な協力が必要になる。

なので、以下のように環境改善もしくはクラス以外の環境を設定する必要がある。

 

通級指導教室へ通う

「通級」とは、普段は通常学級で授業を受けながら、週に何時間かだけ本人の障害特性や課題に応じた支援が受けられるというもの。

年間35単位時間(週1単位時間)から年間280単位時間(週8単位時間)の間で、場面緘黙に合った合理的な配慮が受けられる。

例えば以下のようなもの。

  • 無理に言葉によるコミュニケーションを強要せず、筆談や意思表示カード、タブレット端末やパソコン等を利用する。
  • 「はい」「いいえ」で答えられる質問に限定する。
  • 紙に書いて答えられるように授業を進める。
  • 本人の意志に応じて発言する・しないを決定できるようにする。

通級は2018(平成30)年から高校にも適用され、教員数も増加したので、より個別的で細かな支援が受けやすくなるだろう。

「通級で教員や支援員など限定的な相手との会話→クラスで特に親しい友だちも交えた会話→小グループでの会話→通常クラスでの会話」のように、スモールステップの機会もつくりやすい。

問題点としては、通常学級と通級への行き来が周囲の目につくことが本人のストレスにならないかということ。

また、通級はどこの学校にも設置されているわけではないのと、指導方法がまだ固まっていないので、上記のような支援が必ずしも受けられるとは限らないということなどが挙げられる。

 

特別支援学級・特別支援学校へ通う

特別支援の場合は、個々人の障害に配慮したカリキュラムを組んだ教室・学校への通学がメインで、特別支援学級は通常の学校の中にクラスがあり、特別支援学校は独立した学校として存在している。

特別支援学校の場合は、教員は通常の教員免許以外に、特別支援学校の教員免許も持っている。

デメリットとしては、通常学級の生徒との交流の機会が減ってしまうということと、特別支援を受けるのは知的・発達障害を持つ児童が多いので場面緘黙単体で通えるかどうかわからないという点。

また、「特別支援の教員は免許を持っており、障害を持つ生徒と長い間接しているので専門性や理解がある」というステレオタイプな考え方が存在するが、実際には必ずしもそうとは限らないということも念頭に置いておきたい。

障害について書かれた書籍や専門家の発言には正しくない情報も含まれていて、障害に対する基準も日々変化する。

長い間障害を持つ児童と接してきた教員であるがゆえに、逆に間違った情報や偏見を持ったままそれが強化されていき、本人のニーズを無視した指導をしてしまうこともある。

 

通信制高校へ進学・転入・編入する

高校進学時の進路として「通信制」へ通うという選択肢がある。

また、「全日制の高校へ入学したけど合わなかった」という人には、転入や編入の制度もあるので、緘黙以外にも不登校経験者や、高校中退した生徒も数多く通信制へ通っている。

入学の際は書類選考や作文・面接があるけれど、学力はそこまで重視されないので全日制に比べて入学しやすい。

高校によって入学時期が決まっているところと、随時募集しているところがあるので、資料を請求して自分に合った高校をチェックするのが良い。

 

他校へ転校する

場面緘黙の治療について、最もシンプルな方法の一つに「転校」、「地元から離れた高校に進学する」がある。

これは誰にでも当てはまる方法ではないが、実際場面緘黙の経験者のうちかなり多くの人が、高校への進学をきっかけにそれ以前より話せるようになっている。

これは、周囲にそれまでの自分を知っている人がいないため、話をしても周囲から驚かれたり冷やかされることがなく、話すことに対する抵抗が低くなるためだと思われる。

転校しても同じ効果が期待できるので、今通っている小・中学校から転校したり私立の中学校に入学するなどして、環境を変えるのは人によっては有効だと思う。

 

学校へ通うのを辞める

ここまで挙げてきた方法を試してみてもうまくいかなければ、学校へ行くのを辞めるというのも選択肢の一つだと思う。

これだけ話してきて身も蓋もないけれど、正直な話小・中学校は個人的には通わなくても良いと思っていて、最近ではビジネスで成功している有名人の中にも、日本の学校教育システムを批判している人はいる。

「五体満足」の著者として有名な元小学校教諭の乙武さんも、「学校は6割~7割くらいの子どもに適したシステムだと思っている」と語っているように、システムに馴染めない子どもは必ず存在する。

学校に行かないといけない理由として、多くの人は「勉強して高校・大学を卒業しないと仕事がない」ということと、「学校は集団生活を疑似体験する場だ」という2点を主張する。

ところが実際のところ、小・中学校レベルの勉強なら自宅で参考書やインターネット教材を使えば修得できるし、むしろ自分がわからなくても構わず進んでいく集団形式の授業は効率が悪いともいえる。

勉強が嫌いな生徒は学校に居ようと家に居ようと勉強しないし、授業中もお喋りや居眠りをしていて上の空だったりする。

就職の際に重視される学歴は「どこの大学を卒業したか」なので、小・中学校での成績や出席数を加味されることはまずない。

つまり自主学習でもきちんと勉強して大学に入れば小・中学校で不登校でも問題ない。

もう一つの「学校で社会性を身につける」「学校で集団生活を学ぶ」という考え方に対しては、既存の社会や会社の型に嵌めさせようとしているだけという批判もある。

そもそも、いつの時代もその時代の社会に適応できない人は何割かいるわけで、それを無理やり小・中学校から適応させようとしても、適応できない人は物心ついたときから成人したあとまで延々と劣等感を植え付けられるだけの結果になる。

実際、学校時代のトラウマでうつ病や引きこもりやPTSDになって働くこともできなくなっている人までいる。

それに、学校ではほとんど同年齢の生徒同士としか接しないし、会社なら辞めたければ転職することも、自由に職業を選ぶこともできる。

会社だったら刑事事件になるような暴力やいじめが見過ごされているという点でも、社会生活の疑似体験とは言い難い。

社会経験が積みたいなら高校生になればアルバイトだってできるし、その方がよっぽど社会を知ることができると思う。

 

大学生・大人の場面緘黙の支援

「場面緘黙は成人するまでに治る」という見方が強いため、現状では大人の場面緘黙は見落とされがちで、支援方法について書かれた書籍なども見当たらない。

ところが、現実には成人してからも緘黙が続いている人や、周囲からはわからなくても職場での心理的なストレスを抱えたり雑談を苦手とする人、学生時代の体験から二次障害の鬱や社交不安障害を抱えている人は少なくない。

活用できる資源や選択肢としては、以下のようなものがある。

 

大学の相談室に相談する

近年、発達障害を代表として障害のある学生への配慮が議論され始め、学生支援機構からは「教職員のための障害学生支援ガイド」が発行されている。

例えば京都大学の場合、「障害学生支援ルーム」が設けられており、修学上の相談・支援を行っている。

早稲田大学にも「障がい学生支援室」があり、支援室を通じて担当教員に必要な配慮を伝達してもらえる。

場面緘黙に対する配慮としては、「学生サポーターをつけてもらう」「同級生とはメールや筆談でやり取りする」「ゼミは他の学生を交えず教員と一対一で話す」などの事例がある。

注意点としては、サポートを受けたり支援室を利用するのには、障害者手帳や医師の診断書が必要な場合があること。

自己診断でどの程度対応してもらえるかは、各大学に要問い合わせ。

 

通信制大学へ通う

このブログでも取り上げているように、通信制大学へ通えば基本的に自宅で一人で学習できるので、対人関係による負担やゼミへの参加などが少なくなる。

学校と学部によっては、スクーリングに代わってインターネットのメディア授業を受けることで、学校に一切通わずに卒業できることもできる。

基本的には書類選考で合否が決まるので、面接もない。

 

精神科へ通院する

認知行動療法やその他のカウンセリングを受けたい場合は、精神科や心療内科の予約をとる。

ただし、場面緘黙という名前自体知らない精神科医が多く、薬物治療中心な治療方針を取っている医師が多い。

なので、事前に場面緘黙の知識がある医師がいる病院や、認知行動療法を受けられるかなどは確認しておいた方が良い。

また、障害者手帳を取得して支援を受けたり障害者枠での就職を考えている場合も、精神科・心療内科で診断書を書いてもらう必要がある。

 

場面緘黙で障害者手帳を取得できるか?

障害者手帳と診断書

児童の場合でいうと特別支援学校に通うときや福祉サービスを利用したいとき、成人でいうと大学の障害支援室を利用するときや障害者枠で場面緘黙の配慮を受けながら働きたいときなどに、障害者手帳を取得するという選択肢がある。

場面緘黙は精神医学的障害の一種として定義されているので、「精神障害者保健福祉手帳」を申請することになるが、場面緘黙の世間への認知度が低いため、手帳交付の判定機関である「精神保健福祉センター」の職員がそもそも知らない可能性すらある。

東京都福祉保健局のページには、手帳の判定基準について、以下のような記述がある。

 

精神障害の判定基準は、「精神疾患(機能障害)の状態」及び「 能力障害(活動制限)の状態」により構成しており、その適用に当たっては、総合判定により等級を判定する。

(1) 精神疾患(機能障害)の状態
精神疾患(機能障害)の状態は、「統合失調症」、「気分(感情)障害)」、「非定型精神病」、「てんかん」、「中毒精神病」、「器質性精神障害」、「発達障害」及び「その他の精神疾患」 のそれぞれについて精神疾患(機能障害)の状態について判断するためのものであって、「 能力障害(活動制限) の状態」とともに「障害の程度」を判断するための指標として用いる。

引用元:精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準

 

判定基準について、場面緘黙や社交不安障害の文字は一切なく、精神疾患の状態について強いていえば「その他の精神疾患」(=「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」、「 成人のパーソナリティおよび行動の障害 」、「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」等を含んでいる。)が一番近いかもしれないが、該当するかは微妙だ。

では、場面緘黙で手帳は取得できないのか?

確かに場面緘黙単体では取得しづらいかもしれないが、他に鬱や躁うつのような気分障害を併発している場合は、判定されやすくなる。

「場面緘黙児のほとんどは、それ以外にも病名を診断されている」と冒頭で話したように、元々持っている不安を感じやすい気質や集団生活の中でのストレスが原因でうつ状態に陥る人は少なくないので、場面緘黙と鬱で診断書を提出すれば、障害者手帳を取得できる可能性はある。

障害者枠で就職活動する際には、採用担当者の側は応募者が精神障害者福祉手帳の所持者という以外は、どんな障害や症状を持っているのか当然知らない。

なので応募書類を送付する際や面接のときに場面緘黙の説明と、希望する配慮を話せば、働くときに考慮してもらえる。

ただし、最近は発達障害の診断を受ける人や精神科へ通院する人が年々増えているので、手帳を取得して障害者枠での就労を希望する人も増加傾向にあり、応募者同士少ない求人の奪い合いになるかもしれない。

事業主としては、採用するならできるだけ配慮が少なくて済む、優秀な人材を雇いたいので、場面緘黙の配慮を得ながら働きたいとなると、それに代わる自分の得意なことや持っているスキルをアピールしたり、場面緘黙の症状ができるだけ影響しづらい職種を選ぶなどの工夫ができれば、より採用されやすいと思う。

 

まとめ

以上のとおり、場面緘黙の支援について他の当事者・経験者の話や自分が知っている情報を合わせて考えてみた。

重ねて言うように、緘黙になったきっかけや寛解に至った経過はかなり幅広いので、「この方法が正しい」と言い切れる治療法や進路選択は見出しづらい。

ここに書いたことがすべてではないので、新しく気づいたことがあれば日々更新していこうと思う。

 

参考資料

小・中学校における自閉症・情緒障害等の
児童生徒の実態把握と教育的支援に関する研究
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7412/b-230_all.pdf

特別支援学校の教員:文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/008.htm

場面緘黙のある学生への支援 – 大阪市立大学
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBn0100106.pdf

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