日常でレポートを書く習慣がなく、通信制大学に入学して初めてレポートを書く人にとっては、その書き方を覚えるのがまず最初の課題になる。
武蔵野大学の通信教育部を例にとってみると、科目によってレポートの書き方が変わり、不備があると添削されず点数がつけられないこともある。
しかも、レポートを提出できる回数が決まっており、3回不合格になるとその科目の単位は次年度まで取れないので、正しいレポートの書き方を覚えるのはとても重要。
その代わり、自分の文章でテキストの内容を要約したり考えを述べるのは、テキストを一読してウェブ試験を受けるよりはるかに理解を深められるし、記憶に定着しやすい。
レポートは実際に何度か書いてみればだんだん書き方を覚えていくが、書き始めるに当たって押さえておきたい要点を解説する。
難しい?!通信制大学のレポートの書き方
レポートの構成にはきまりがあって、その構成の型に当てはめて書くことに慣れてしまえば、作成するのが格段に楽になる。
その構成とは、「序論」「本論」「結論」の3つをさす。
序論
レポートの最初に述べる部分で、レポートのテーマについての基礎知識(研究の歴史や背景)や問題点を書く。
例:近年の英語教育は会話を重視している。しかし学生の英語力は30年前に比べて低下している。
本論
序論を受けて、なぜ問題になっているのか理由を述べ、必要に応じて文献や資料を引用して根拠を示す。
例:英文から海外の最新の知識を得ることができず、国際競争に遅れをとってしまう。
結論
本論で示した問題点をまとめ、これからに向けた解決策を示す。
例:文法と単語の基礎を固めることで、読解力と総合的な英語力の底上げを図れるのではないか。
レポート作成に必要な考え方
- 一般論や感情論に流されない
- 専門分野の知識や統計的判断で説明する
- 批判的思考をもつ
一般論や感情論に流されない
論文やレポートは感想文ではないので、個人的な感情で論じてはいけない。
特に心理学実験のレポートなどでは、個人の思いこみや、うわさなど根拠のない意見は含めず、これまでの研究成果や実験結果から得られた事実にもとづいて書く。
- 一般的に信じられている話:血液型と性格の関係
- 身近で耳にする言葉:これからの時代は日本人も英語を話せないといけない
- マスメディアの意見:暴力的なゲームやアニメと青少年の殺人事件の関係
専門分野の知識や統計的判断で説明する
文章の内容に信憑性を持たせるには、長年の事例研究で蓄積された知識や、多くの人の傾向がわかる統計データなどを用いるのが良い。
レポ―トの内容によっては、文中に表やグラフを挿入して説明する。
一方で、「〇〇だと思う」「私は〇〇だと考える」「これまでの私の経験から、〇〇に違いない」のような主観的な表現は避ける。
自分の主張を含めるときにも、先行研究やこれまでの知見をもとに述べる。
批判的思考をもつ
これまで論文で発表された有名な研究報告や、世間で常識的なことがらでも、それが本当なのか疑問に思うことで新たな研究につながり、これまで正しいと信じられてきたことが実は間違っていたと判明することもあるという意味で、批判的な思考が大事になる。
近年では、STAP細胞の論文に不正が発覚したことが話題になったが、論文には不正やデータの捏造、データのもとになる実験環境の不備などが指摘されることがある。
また、世間一般に浸透している、スマホ等の電子機器が心臓ペースメーカーに与える影響や、「受動喫煙」による健康被害についても、影響はないとする報告が増えてきている。
以上のようなことから、できるだけ思い込みをなくし、「本当にそうなのか?」と冷静に考え直す態度が重要になってくる。
レポート作成の原則
- 疑問の余地を残さない
- 論理的な説明をするために、必要なことはすべて書く
- 説明をするのに不要な内容は排除する
疑問の余地を残さない
レポートは、「この実験のやり方は本当に適切なのか?」「この解釈は前の文章で書いていたことと矛盾してるんじゃないか?」という他人からの指摘を受けないように、筋道だったものでなければならない。
なので、レポートを書いている最中や完成したあとで確認するときに、自問自答しながら文章を読み直し、違和感があれば修正していく。
論理的な説明をするために、必要なことはすべて書く
レポートや論文は他人に報告するものなので、書いた人にしかわからないような説明の仕方は避ける。
例えば心理学実験のレポートでは、読んだ人がその実験を再現できるような方法で、実験材料や手順など事細かに書く。
説明をするのに不要な内容は排除する
レポートの内容に関係のない話や、個人的な体験談は基本的に書かないようにする。
- 不適切な例1:私の子ども時代の経験では、〇〇であることが圧倒的に多く…(略)
- 不適切な例2:〇〇というのが私の家系では代々教えられてきたことで…(略)
心理学実験レポートの具体例
ここで、大学の心理学実験実習のレポートの例を載せてみる。
大学や科目によってレポートの書き方は異なるが、だいたい上記のように「標題」「問題」「目的」「結果」「考察」「引用文献」の項目をつけて、それぞれに合った内容を記載する。
一般に公表されている論文も、だいたいこのような構成になっているので、レポートを作成する前に検索してみれば参考になるかもしれない。
大学では、まず初めに学籍番号と名前、そのあと一行空けて3行目にタイトル、タイトルのあとも一行空けて5行目から本文の内容に入っていく。
「問題」「目的」などの見出しをつけたら改行し、最初の一文字を空けて二文字目から書き始める。
文章の途中で改行するときも同様に一文字分空ける。
「方法」のところで「実験場所」「実験手順」のような小見出しをつける場合は、小見出しのあと一文字分空けて書き始める。また、方法や結果は基本的にすべて過去形にする。
「結果」には実験で得られた数値や、実験参加者の感想などを書く。表やグラフなどを添付する場合は、(表1)(図1)のようにして本文の中で参照する。
「考察」では、実験の目的について再度要約して書き始め、結果から考えられることや、実験から発展させて日常生活や社会も応用が期待できるようなことがあれば、記載する。
「引用文献」には、本文中に引用した文章があれば記載する。「引用」とは他の著者が書いた本や文献の言葉をそのまま使ったときだけでなく、本や文献の内容を要約して書いたときにも「引用」に含めて記載する場合がある。
文章全体としての注意点としては、敬語は使わず「~である」のような「である調」にする。
また、実験レポートでは特に主観的な表現が禁止されているので、「~だと思う」「~してほしい」のような文章よりも、「~だと考えられる」「~が期待できる」という表現の方が好ましい。
その他、詳しい書き方については「日本心理学会」のページに執筆方法が記載されている。
https://psych.or.jp/manual/
心理学の実験レポートの書き方は、論文の書き方とほぼ同じなので、下記の記事も参照してほしい。
心理学実験以外のレポートの書き方
心理学実験の他にも、「カウンセリング論」「認知心理学」「臨床発達心理学」「犯罪心理学」のような、さまざまな科目でレポート提出が求められる。
科目によっては、前述のように見出しはいくつも付けず、テキストの内容を要約したり、個人的な意見を書くことが求められることもある。
また、心理学実験のレポートでは、冗長にならないように簡潔に書くことが求められるが、他の科目では指定された文字数の範囲でレポートを書かなければならない場合もある。
武蔵野大学通信の場合だと、だいたい1400~2000字くらいで書く科目が多いように感じる。
論文・レポートの文章表現・表記方法の注意点
主語に「私」は使わない
論文は全体を通して客観的に物事を述べなければならないので、基本的に一人称の「私」は使わない。
- 誤った例:私は〇〇と考える。
- 正しい例:〇〇(2000)の調査結果から、〇〇ということが示唆される。
一つの文章が長くなりすぎないようにする
文が長くなりそうなときは、途中でいったん句点(。)で区切る。
長い文の例:
以上のことから、孤独感と不安感の間に関連があることが示唆されているが、孤独は積極的孤独と消極的孤独という2つのタイプに分けることができ、〇〇(1999)は消極的孤独は不安感に影響する一方、積極的孤独は…(略)
途中で区切った文の例:
以上のことから、孤独感と不安感の間に関連があることが示唆されている。一方、孤独には、積極的孤独と消極的孤独という2つのタイプがある。〇〇(1999)は消極的孤独は不安感に影響する一方、積極的孤独は…(略)
口語体は使わない
「です・ます」口調や敬語、「だと思う」「そういえば~」「〇〇だろうなぁ、と思って」「なので、〇〇は考えられない」のような表現は禁止。
「である」調や「したがって」「しかしながら」「一方で~」「つまり~」「また、〇〇」「〇〇と考えることができる」「〇〇といえよう」などの表現が使われる。
重複した表現を繰り返し使いすぎない
例えば、文章の終わりが「〇〇だと考えられる」ばかりだと、読み手に違和感を感じさせる可能性がある。
「考えられる」の代わりに、「〇〇の可能性がある」「〇〇という仮説を立てることができる」「〇〇といえよう」のように言い換えて、同じ言い回しが連続しないようにすれば、すっきりした文章になる。
数字表記は半角を使う
1ケタの数字には全角を使っても良いが、2ケタ以上の数字は半角を使う。
また、年の表記は原則として西暦で記載する。
漢字を使いすぎない
あまり漢字だらけのレポートよりも、ある程度ひらがなで書かれている方が読みやすい。
特に以下のような字は、ひらがなで書く。
- 普通→ふつう
- 再び→ふたたび
- 色々→いろいろ
- 及び→および
- 並びに→ならびに
- 各々→おのおの
- 初めて→はじめて
- 他の→ほかの
- その通り→そのとおり
- する時は→するときは
- 行う→おこなう
- それと共に→それとともに
- 始める→はじめる
レポート作成に必要な資料を集める方法
書籍から情報を得る
書籍は、一冊の本から多くの情報が得られるというメリットがある。
ただし、誤情報や著者の偏見が含まれている場合もあるので、特に以下のような信頼性の高いものがおすすめ。
- 専門家の執筆した専門書
- 学会が発行している学術雑誌
論文から情報を得る
論文は所属している大学の図書館や、以下のような論文検索サイトから探すことができる。
- CiNii(サイニィ)
- J-STAGE
- Google Scholar
特に、学会で発表された論文や、学術雑誌に載っている論文は、学術的な審査を経て公開されているので、信頼性が高い。
統計データから情報を得る
厚生労働省や法務省のウェブページには、ある特定のテーマについての大規模な調査結果や統計データが公開されているので、利用価値が高い。
また、これらのサイトで使用されている図表は、自分のレポートに掲載することもできる。
レポートを書き進めるためのコツ
レポートの書き方に慣れてないうちは、言葉の使い方や序論→本論→結論の形式が身についていないので、なかなか先に進まないかもしれない。
そういう場合は、まずは完璧でなくても良いので最後まで、もしくはキリの良いところまで書いてみるのがおすすめ。
いったん書き終わったら、そのあとで再度見直して、①文章に矛盾がないか、②正しい書き方で書けているか、の2点を見直す。
できれば書き終わったあとのチェック項目のリストをつくっておいて、リストと照らし合わせながら「段落のはじめは一文字分スペースが空いているか」とか「誤字・脱字はないか」を確認していく。
また、「ここの部分は読み手が読んだときに、意味が伝わらないんじゃないか」とか、「この部分は根拠が不十分だから反論される可能性がある」といった第三者がレポートを読んだときのことを想定しながら、再度修正していく。
一度修正したら再度読み直して、文章表現に間違いはないか、前後の文章に矛盾点はないか確認するといった作業を繰り返しおこなうことで、完成度の高いレポートに仕上がっていく。
こうしてレポートを何本か書いているうちに、自然と表現のしかたやルールを覚えていくので、レポートを書くのもきっと楽になっていく。
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