【心理学実験】観察法と実験法によるパーソナルスペースの研究

車の中で座っている男女

 

パーソナルスペースの研究は心理学の世界では有名で、人と人とのコミュニケーションを促進したり、逆に他者との距離を一定に保つための環境デザインを設計するという目的から、環境心理学の分野とも関連が深い。

また、心理学の実験というと、統制された条件の下で行う実験室実験や、アンケートの回答結果を分析する質問紙調査などがポピュラーであるが、パーソナルスペースの実験はその性質上、観察法を取り入れることがある。

大学の心理学の授業でも、観察法の体験学習として、パーソナルスペースの観察を行うこともあるだろう。

一方で、教室や実験室で行うパーソナルスペースの実験もある。

今回は、実際自分が大学で行った実験の方法や、パーソナルスペースについての考察をまとめてみた。

 

パーソナルスペースとは?

パーソナルスペースとは、「個人を取り巻く目に見えない、持ち運び可能な領域境界で、その中に他者が入ると心的不快を生じさせる空間である」と定義されており、ポータブルテリトリーと呼ばれることもある。

 

人

 

上図のように、前方の距離は長く、左右と後ろは短い卵のような形をしているのが特徴だ。

このパーソナルスペースの広さは、相手との関係性によって変わってくると言われており、①親密距離(0~0.46m)、②私的距離(0.46~1.2m)、③社交的距離(1.2m~3.7m)、④公共的距離(3.7m以上)という4つのカテゴリーに分類される。

また、年齢や性別、その人の性格によって距離に違いがあるという研究報告もあり、幼児期から青年期に近づくにつれて距離は広くなり、女性よりも男性の方が長い距離を保とうとする傾向がある。

性格的には、外向的な人は比較的対人距離が狭く、暴力的な囚人などは広い距離を保つという報告がある。

 

観察法によるパーソナルスペースの研究

観察法では、実験者によって設定された人工的な環境ではなく、自然な日常場面を観察するため、より現実性の高いデータを得ることができる。

また、自然な人の行動を観察するので、意図していなかった思いがけない発見をすることがあるのが利点だ。

日常場面で人の行動を観察する例としては、例えば空席が多い電車内で、人がどの座席に座るかを観察するのも、パーソナルスペースに関する示唆を得られる可能性がある。

端の席に座れば、後から人が入ってきても、自分の右どなりか左どなりのどちらか片方だけで済むが、真ん中の座席に座れば自分の左右に人が座ることになり、パーソナルスペースを侵害される割合が大きくなる。

しかし、対人距離が狭い人であればそれほど気に留めないかもしれない。

他には、フードコートなどで、複数人のグループが空いているテーブルに着くとき、そのグループのメンバーがどの座席を選ぶかを観察するという方法もある。

 

 

上図のように、座席に番号を割り振って、男女のグループがどのように座席に座っていくかを観察する。

もしくは、すでに誰かがテーブルのどこかの座席に座っている場合、後から来て同じテーブルの座席に座る人は、どの席を選ぶかを観察するという方法もある。

観察法の短所としては、観察の対象とする人が来るまで待ち続けなければならないため、時間がかかるということや、観察を行う環境を統制できないため、他の外的な要因が観察結果に影響を及ぼすことなどが考えられる。

また、観察法の場合でも実験データの取り扱いや、倫理的な配慮を怠ると問題が起こる原因になりかねない点には注意したい。

 

実験法によるパーソナルスペースの研究

大学の実習で行ったパーソナルスペースの実験では、教室内でグループに分かれて対人距離を測定する「停止距離法」を使用した。

この方法では、接近者が実験参加者(被験者)に近づいていく「被接近条件」と、参加者が基準者に近づいていく「接近条件」の二通りのやり方がある。

まず最初に中心位置を決め、その中心位置から前、後ろ、左、右、左ななめ前、右ななめ前、左ななめ後ろ、右ななめ後ろの計8ヶ所の位置にテープを貼る。

距離はだいたい中心位置から250cm程度。

 

被接近条件では、参加者は中央に立ち、接近者は参加者の方へ近づいていく。

距離が縮まっていき、不快に感じる距離に達したところで参加者は「ストップ!」と声をかけ、接近者は立ち止まる。

その停止した接近者の位置から参加者の位置までの距離を測るという作業を、8方向すべてで実施する。

実験の図解説明

 

接近条件では、今度は参加者の方が中心位置にいる基準者へ向かって、8方向から近づいていく。

そして、参加者が不快に感じる距離に達したところで立ち止まり、基準者との距離を測定する。

実験の図解説明

 

実際に実験を行った結果としては、どちらの条件でも前方での距離が一番長く、後ろや左ななめ後ろ、右ななめ後ろの距離は短かった。

これは、被接近条件では、参加者は後方は死角に入るため、接近者との距離感がつかめず、接近条件では基準者に見られることがないため気にせず近づいていけることで距離が短くなったと考えられる。

一方、やはり前方からの接近では、接近する場合でもされる場合でも、親密でない相手とは距離を取りたい心理が働くようだ。

左右からの接近の場合は、前方よりは距離が短いが、後方ほどではなかった。

性別による違いでは、男性の方が女性よりも長い対人距離をとる傾向が見られた。

 

まとめ

木製のテーブルと椅子

大学の実習で行った実験では、先行研究とほぼ同じ結果が得られた。

実験法の短所としては、今回のように大学の学生同士という関係性のもとで実験を行っているので、相手に対する遠慮などの感情が働き、自然なデータが取れなくなる可能性が挙げられる。

また、大学の教室で行う実験と、日常の場面では隔たりがあるのではないかという疑問もある。

結論としては、観察法と実験法にはそれぞれ長所・短所があるので、両方を併用して色々な視点から示唆を得るのがベストだろう。

パーソナルスペースの研究の応用例について述べると、丸いテーブルを囲むように椅子が配置された設計は、コミュニケーションの促進を狙ったデザインである。

逆に、一本の木を囲むように同心円状に外向きに椅子が配置された設計は、他者を意識せずに済むように作られている。

このように公共の場における環境デザインにも、パーソナルスペースの研究が役立だせられることが期待されている。

例えば、病院の診察室における患者と医師、カウンセラーとクライエントの座る椅子の配置を考えることで、患者・クライエントがリラックスして話せるようになるかもしれない。

図書館の読書席や病院の待合室、学校の教室にも同じようなことがいえる。

障害者の就労移行支援では、パーティションで仕切って一人一人が作業に集中できるような部屋の設計を試みている事業所もある。

今後も研究を通じて、環境デザインの設計は行われていくだろう。