場面緘黙症に効く薬はあるのか?経験者が論文をもとに分析してみた

場面緘黙症は、「家などでは話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況(例えば学校のような)では、一貫して話すことができない」という症状のことで、少なくとも1ヵ月以上続くことが診断基準になる。

この症状のことを知ったのは成人してからで、小・中学校の9年間ほとんど人と会話をしたことがなかったこと、高校入学以降も不安症のような状態が続いていたことから、ネットで検索して初めて知った。

しかし、場面緘黙症の人の割合は他の精神疾患と比べて少なく、研究もそれほど進んでいないため、治療法も確立されていない。

治療法の一つとして、「場面緘黙は薬で治せるのか?」ということに興味がある人もいるようなので、個人的な経験や論文データを織り交ぜて、色々な角度から考察してみた。

 

場面緘黙症に対する薬の治療効果を研究した論文の例

データ収集の手段として、今回はGoogle Scholarを使って論文を検索してみた。

まず、場面緘黙症に特化した治療薬を探してみたが、見つからなかった。

次に、場面緘黙症に効く薬があるのか調べたところ、いくつかのレビューが見つかったので、要約して取り上げてみる。

 


 

A Review of Etiology, Comorbidities, and Treatment(2010 Mar)

引用元URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2861522/

◇1994年の研究で、場面緘黙症の子ども6人にフルオキセチンというSSRI(抗うつ薬)を12週間投薬した結果、緘黙と不安の改善が評価された。ただし、他の症状については変わらなかった。

◇1995年の別の事例で、学校で話したことのない12歳の女子にフルオキセチンを投薬した結果、1ヵ月で教師や他の友だちと自由に会話できるようになった。さらに、7か月後にはその他の社会的コミュニケーションや交流も普通にできると評価された。この女子には心理療法や行動療法による治療の効果は現れなかった。

◇1996年の研究では、9週間フルオキセチンを投薬した子どもの不安と緘黙が減少したと評価された。

◇これらの研究は今後に期待はできるが、被験者の数も事例も少なく、青少年は試験から除外されているという問題がある。

◇大規模な臨床試験をおこなわないと、投薬の効果について結論づけることはできない。

 


 

The use of medication in selective mutism: a systematic review(

引用元URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00787-015-0794-1

◇場面緘黙症の子どもにSSRIを投薬した、過去の10個の研究レビューによると、いずれも効果が確認された。

◇そのうちの一つの研究では、二重盲検法(被験者にも実験者にも誰が被験者かわからないようにする方法)を使い、フルオキセチンを投与する群とプラセボ(偽薬)を投与する群を比較した。その結果、被験者の親の報告によるとフルオキセチンを使用した群の方が症状に改善が見られた。

◇ただし、この研究レビューには、出版バイアス(出版するのに都合の良い事例だけを報告すること)、研究に不十分な部分があること、それぞれの研究結果の測定方法が違うことなどが影響していると考えられる。

◇どの研究も被験者の人数が少なく、比較対象となる統制群(薬の投与などの操作を加えない群)が用意されていないものが多く、結果の測定方法にも一貫性がない。

◇臨床家は、症状の回復があまり見られない場面緘黙の児童の性質や、薬物治療の有効性を示すエビデンスの不足、心理的介入の効果が少ない、もしくは効果が現れるのが遅い子どもの発達上の影響を考慮する必要がある。

 


 

Current Challenges in the Diagnosis and Management of Selective Mutism in Children(2021 Feb)

引用元URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7896755/

◇臨床の一般ガイドラインでは、SSRIによる薬物治療は認知行動療法(CBT)の効果が不十分なときに選択するということになっているが、両方併用することで不安症の子どもと大人に対して、より効果的であるともいわれている。

◇子どもに対する薬物の投与は副作用のリスクがあるため、場面緘黙の子どもに対するSSRIの効果を検証した研究は少ない。

◇分析の対象にできた数少ない研究は、被験者の数が少なく、それぞれの研究内容も異なり、比較対象となる被験者群が用意されておらず、結果の測定方法が一貫していない。

◇SSRIにより症状の改善が見られた研究もあるが、完全に寛解が見られた子どもがどれくらいいるのか、ほとんど明らかになっていない

◇今のところ、CBTとSSRIを併用した場面緘黙の治療の支持はされていない。

 


 

上記はどれも、これまでの場面緘黙症に関する薬物治療の事例をまとめて、メタ分析やシステマティックレビューといった手法を使って考察したもの。

共通して記述されているのは、場面緘黙症そのものの治療薬はなくても、不安症や抑うつに対して使用されている薬を用いることで、場面緘黙の症状の改善にもつながる可能性があるということ。

これは、場面緘黙症の人は社交不安障害や抑うつを併発しているケースが多いことや、場面緘黙は不安症の一種のように捉えられていることを思い合わせると、納得はできる。

不安症やうつ病の患者はセロトニンという脳内物質が不足しているという仮説があるため、薬物治療の中でも、SSRIと呼ばれる選択的セロトニン再取り込み阻害薬が主に使用されている。

 

ただし、場面緘黙症の子どもに対して薬を投与する研究の事例はほとんどないので、その効果がどれくらいあるのか、本当に効果があるのか現段階ではわからない。

普通、薬の効果を検証するには、薬を投与した被験者と、投与されていない被験者を時間を追って観察するのが一般的だが、そういった研究はほとんどない。

被験者数も、数百人とか大規模な人数を集めないと効果がはっきりとわからないので、データが不足している。

また、子どもに対してSSRIなどの向精神薬を使用するのは、副作用のリスクが大きいので、かなり慎重にしなければならない。それが研究が少ない要因でもある。

なお、場面緘黙症の研究はほとんど幼稚園~小学生くらいの子どもに限定されているので、成人に対する研究は見つけることができなかった。

 

 

場面緘黙症の経験者が10年間薬を飲み続けた感想

ここでは、精神科で処方された薬を約10年間飲み続けた感想を書いてみる。

個人的な体験でしかないので、他の人に当てはまるかわからないが、参考になれば良いと思う。

 

はじめて精神科を訪れたときは、まだ場面緘黙症のことを知らず、不安や抑うつを改善する薬だけが処方された。

はじめはデパスという薬を少量だけ処方されたが効き目が感じられず、それからレキソタンやワイパックス、トレドミン、アモキサン、ドグマチール、リフレックスなど、薬を何度も変更した。

ミンザインやサイレースといった睡眠薬を処方されたこともあったが、どれもあまり効果が感じられなかったのに加えて、副作用で日中の眠気やアカシジアなどの症状が現れた。

一番長く使用していたのは「ソラナックス」という頓服で、学校や会社に行く前に服用していた。

主治医の話だと、不安の改善にはソラナックスが最も良いということだったが、効果があったのかどうなのかよくわからない。

人前でのスピーチや、プレゼン発表をするときに楽になった感覚はなかったので、効き目はなかったのかもしれない。

プラセボ効果というもので、最初のうちは薬の効果を信じているために、効いているような気になるが、ある程度時間が経つとその実感が薄れてくるというのもある。

 

薬を辞めたきっかけは、数年前に海外に長期滞在することになって、病院に通うこともできないため、滞在中に断薬せざるを得なくなってしまった。

しかし、断薬してからも特に症状は良くも悪くもならず、睡眠薬を辞めたことでむしろ日中の眠気が少なくなったので、それ以来、抗うつ薬・抗不安薬は使用していない。

 

 

まとめと考察

前述した体験は個人的なものなので、薬の効果がある人もいるかもしれない。

実際に、これまでの研究や臨床試験で、SSRIの効果はある程度確認されている。

 

一方で、服用し続けることで薬に対する依存が強くなること、副作用があること、急に断薬すると離脱症状が起こることなどがリスクとして挙げられる。

特に未成年者や子どもが薬を服用する場合は、成人よりも副作用のリスクが大きいので、少しずつ用量を調整したりして、慎重に処方する必要になる。

また、海外では薬を試す前に、心理療法や環境の改善などのできる手段を試すこと、病気の原因を把握することなどを優先し、他に治療法がない場合に投薬するという流れになっているようだ。

もしくは、薬だけでの治療はおこなわず、認知行動療法や家族療法などの心理療法と組み合わせることで最も効果があるともいわれている。

 

いずれにしても、場面緘黙症に対する薬物治療の有効性はまだ証明されていない段階なので、慎重に決定すべきだと思う。

また、場面緘黙症を含めて、精神科に通う子どもに大量に薬を処方する医師がいた場合、保護者は十分な注意が必要だといえる。