【心理学実験】鏡映描写装置を使った集中学習と分散学習の学習効果

 

心理学には、認知・学習・教育・発達などさまざまな研究分野があるが、その多くの分野で「記憶」について取り上げられている。

例えば、過去の記憶が一切なくなれば、自分にとって大切な存在や思い出について考えることはできなくなるし、自分の人格を形成してきた成功体験や失敗体験、トラウマも消えてなくなるかもしれない。

身近な例でいえば、受験勉強や資格取得のための学習をする際に、効率よく、たくさんのことを覚えて、記憶に維持し続けることが得点アップにつながる。

その学習効率について検証するために、手軽な実験方法として「鏡映描写」による実験が有名なので、実際におこなった実験手順から結果まで詳しく説明する。

 

知覚運動学習と集中法・分散法とは?

人は日常生活の中で、目で見て、耳から聴いて、手で触るなどの知覚情報を利用して、さまざまな動作を行っている。

例えば、テーブルの上にあるものを取る、字を書く、自転車に乗るなどの何気ない動作も、目で見て距離を見積もり、耳で聴いて遠近感をつかみ、平衡感覚をつかんで運転するなどの知覚を、無意識に利用している。

しかし、「楽器を演奏する」「野球でバッドを球に当てる」などの普段あまり行わない動作をするときには、繰り返し練習するなどの訓練(運動)が必要だ。

こうした知覚と運動によって新しいことをできるようにする過程を、「知覚運動学習」もしくは単に運動学習という。

知覚運動学習の方法として、どのように学習すれば効率的に技能を修得できるか研究していく過程で、集中法(集中学習)と分散法(分散学習)の研究が進められた。

 

  • 集中学習・・・テスト前の一夜づけのように、短期間にたくさんの試行(学習)を繰り返す方法
  • 分散学習・・・毎日少しずつ勉強するなど、間隔を長くとったり分けたりして訓練を行う方法

 

集中と分散では、どちらの方が記憶に定着するのだろうか?

 

一般的には、分散学習の方が効果があるといわれている。

テスト前に一夜づけで勉強した場合、次の日のテストでは多少記憶に残っていても、数日経つとすべて思い出せなくなっているという経験がそれを物語っている。

ただし、学習の内容や難易度、本人のモチベーションによっても変化しやすく、あまりにも間隔が空きすぎると、かえって学習効率が悪くなるともいわれている。

例えば一冊の英単語帳を覚えるのに、一ヵ月に一回しか単語帳を開かなかったりすると、開くたびに毎回ほとんどの単語を忘れていたりするのがそれに当てはまる。

 

鏡映描写装置を用いた実験の手順・方法

集中学習と分散学習による学習効率を比較する方法として、「鏡映描写」は代表的な実験方法の一つで、大学の心理学の授業では盛んに行われている。

「実験」というと大がかりなもののように聞こえるかもしれないが、大学の授業で行う実験にはそれほど大規模なものはなく、鏡映描写も、鏡と紙と鉛筆さえあればどこでも手軽にできる。

分散法条件の手順は以下のとおり。

 

1.描画用紙を用意する

まず、星形の用紙を用意する。

なぜ星形かというと、正方形や丸や三角よりも描画するのに難しい箇所があり、データから考察できることも多いから。

 

星の絵が書かれた描画用紙

 

2.鏡映描写装置に描画用紙をセットし、描画の準備をする

①鉛筆を星の頂点に合わせ、矢印の方向へ向かって一周する。

②このとき、実験参加者は鏡に映った非対称な星を見ながら描写することになる。

 

 

鉛筆を紙から離さないようにし、もし星形の枠から外れても、そのまま離さず元に戻って軌道修正する。

 

3.計算問題を解く

実験者が提示した3桁の数字(数字に特に決まりはない)から、7ずつ引き算する。

例えば、実験者から200という数字を提示されたら、「193…186…179…」というように200から7ずつ引いた数字を、目をつぶって暗算する。その際、数を忘れてしまったり、計算を間違えてもそのまま続ける。

1分程度経過して、実験者が「止め」の合図をしたらそこで計算を辞める。

 

4.新しくセットされた用紙に描写する

星形の新しい描画用紙に描画する。

 

(1)~(4)の手順を全部で11試行くらい繰り返す。

 

集中法条件では、(3)の計算問題をしないで間隔を空けずに、描画を11試行繰り返す。

計算問題を解いている時間はいわば、休憩時間のようなものだが、何もしないで休憩していると、描画のイメージを思い浮かべたりして頭の中で作業している状態になってしまう恐れがあるので、問題を解くことで意識をそらす効果を狙っている。

 

データの取り方としては、試行のたびに描画用紙の星を一周するのにかかった時間を計測して、一回目と最後でどれくらい時間に差があったか比較したり、集中法で実験した参加者と分散法の参加者でどのような違いがあるかを検討する。

そのため、「実験の指示をする人」「実験をする参加者」「ストップウォッチで時間を計る人」「記録用紙に記録する人」「描画用紙を取り換える人」など複数人で役割分担するのが良いだろう。

 

鏡映描写の結果レポート

実験結果をグラフにしてみると、以下のような結果になった。

青の折れ線は「集中法条件」、赤は「分散法条件」の参加者の平均。

参加人数は、各条件とも4人ずつ。

 

 

最初は要領がわからなかったり、感覚がつかめなくて時間がかかるけれど、回数を重ねるごとに慣れてきてタイムが縮まる。

先行研究では、分散学習の方が最初と最後の時間差が大きい=学習効果が高いという結果が出ているが、自分たちで行った実験の結果は、集中学習の方が時間差が大きかった。

 

とはいえ、大学や個人の実験では参加人数が少なすぎるので、個人差や実験環境による影響を受けやすく、正確なデータを取るのは難しい。

つまり、このデータの信憑性は低いと言わざるを得ないだろう。

大学の授業で行う実験の目的は、その効果を確かめるというより、実験の方法や統計データの取り方、レポートの書き方や倫理的配慮について学ぶことに重きを置かれている。

 

なお、今回の鏡映描写の実験方法や手順については、以下の日本心理学会が執筆・編集しているテキストにもとづいている。

鏡映描写を含めた代表的な実験の方法、用紙や実験材料のダウンロード、レポートの書き方まで詳細に載っているテキストなので、実験実習をする心理学の学部生には必須。

 

まとめ

ネット上には、学習方法について書かれたブログや動画が溢れかえっているが、個人が運営している媒体には注意すべき点もある。

記憶や学習に関する分野は心理学と深く関係しており、有名なブロガーやユーチューバーが紹介する学習方法も、よく知られた有名な研究をもとにしていることが少なくない。

しかし、心理学の分野ではこれまで正しいと思われていたことが実は間違っていたり、有名な研究者の表面的な話だけが独り歩きしてしまい、勘違いを生んでしまっているケースもある。

ある論文では効果的だと言われていたことが、別の論文では効果がないと言われたり、論文のもとになった実験環境やデータについて疑問を呈する声が上がることも珍しくない。

その分野について専門的に勉強している人でないと、見落としがちな側面もある。

心理学の知見は、集中学習と分散学習の研究をはじめとして、知っておけば役立つ可能性も十分にあるので、もし情報を目にしたら、他の書籍やサイトや論文もいくつか見てみるのが良いだろう。

 

参考文献
実森正子・中島定彦(2000). 「学習の心理―行動のメカニズムを探る」 サイエンス社

横山詔一・久野雅樹 (2015). 鏡映描写-練習法と学習のプロセス 実験・実習で学ぶ心理学の基礎 /金子書房/日本心理学会