通信制大学の心理学部から公認心理師になるにはどうすればいいか?【2021年版】

近年、こころの悩みをもつ人が増えていることと関連して、心理学を勉強したいという人や、心理系の資格への関心がもたれている。

心理系の取得としては、臨床心理士がこれまで最も上位の位置していたが、2018年に公認心理師法が施行されたことで、国家資格の公認心理師に注目が集まっている。

しかし、この新資格は取得までの道のりが長く、すでに就業している社会人にとっては条件がとても厳しい。

その厳しい条件の中で、受験資格を得るための現実的で負担の少ない方法として、通信制大学の活用がある。

そこで、本記事では通信制大学の心理学部から公認心理師の資格を取る方法について、検証してみる。

なお、公認心理師の特徴やメリット・デメリット、臨床心理士との比較については下記の記事を参照。

 

 

公認心理師の受験資格とルート

引用元:厚生労働省-公認心理師-4. 受験資格等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html

上記のとおり、公認心理師の資格試験を受けるにはA~Gのルートがある。

 

区分A

4年制大学と大学院で指定された科目を履修し、修了する。

一番スタンダードな方法で、これから心理学を勉強する学生や、実務経験がない人はこのルートを選択する。

大学・大学院で履修が必要な科目については、公認心理師法施行規則(平成29年文部科学省・厚生労働省令)の第1条、第2条を参照。

また、履修の際には以下のような点に注意したい。

 

  • 大学→大学院の順で科目を履修しなければならない。大学院を修了したあとで大学で科目を履修しても、受験要件を満たせない。
  • 科目等履修生制度で履修した科目は、受験要件として認められない。
  • 過去にA大学で履修した科目が、新たに入学したB大学で履修科目として認められない場合、B大学で一から科目を履修し直す必要がある。

 

区分B

4年制大学で指定科目を履修したあと、文部科学大臣および厚生労働大臣が認めた施設で2年以上(標準では3年)のプログラムを修了する。

この施設とは、公認心理師法施行規則(平成29年文部科学省・厚生労働省令)の第5条、あるいは公認心理師法第7条第2号に規定する認定施設に記載されているが、2021年現在、全国に9ヶ所しかない。

 

区分C

公認心理師法第7条の第1号および2号と同等以上の知識と技能をもっている者。

法第7条を読んだ限りでは、区分Aもしくは区分Bの受験資格者と同等程度の知識・技能のことだと考えられる。

詳細については、公認心理師法( 平成27年09月16日法律第68号・ 厚生労働省)の第7条第3号を参照

 

区分D1

2017(平成29)年9月15日より前に、大学院で施行規則附則第2条で定められた科目を履修している者。

つまり、区分Aの大学院で履修する科目を、公認心理師法の施行前に履修していることが条件。

 

区分D2

2017(平成29)年9月15日より前に大学院に入学し、9月15日以降に施行規則附則第2条で定められた科目を履修する。

つまり、区分D1とほぼ同じだが、大学院に在学中の者のことを指している。

 

区分E

2017(平成29)年9月15日より前に、4年制大学で施行規則附則第3条で定める科目を履修し、2017(平成29)年9月15日以降に大学院で指定科目を履修する。

この区分は、法律施行前に心理学の科目を履修した人への特例措置となっている。

自分がこの要件に該当するかどうかは、公認心理師法施行規則(平成29年文部科学省・厚生労働省令)の第3条を確認することと、卒業した大学に問い合わせて確認する。

 

科目の読み替え(履修した科目が施行規則で定められている科目に対応しているかどうか)は、各大学・大学院がそれぞれ判断するので、卒業校に問い合わせる必要がある。

 

区分F

2017(平成29)年9月15日より前に、4年制大学で施行規則附則第3条で定める科目を履修し、B区分と同じく指定施設で2年以上(標準では3年)のプログラムを修了する。

 

区分G

2017(平成29)年9月15日時点で、文部科学大臣および厚生労働大臣が認めた、法附則第2条第1号~3号の業務を行っている施設で5年以上の実務経験を積み、現任者講習を修了した者。

これは、文部科学大臣および厚生労働大臣が認める施設で、心理に関係する支援の仕事を5年以上している実務経験者を対象としている。

その施設とは、①国または地方公共団体が心理に関する支援を実施している施設、②法人・個人が法第2条第1号~第3号までに掲げる行為を業としていることが客観的に明らかである場合とされている。

詳細については、日本心理研修センターのウェブサイト内にある公認心理師試験について-「受験の手引」デジタルブックのP.12およびP.58を参照。

 

この特例措置は2017(平成29)年9月15日以降5年間までしか認められない。

 

 

社会人から公認心理師になるにはどうすればいいか?

前述の公認心理師になるためのルートを考えると、Bルートは大学卒業後に、全国に9つしかない認定施設で最低2年間は実務経験を身につけなければならない。

C~Gルートについては、すでに大学や大学院で心理学の単位を修得していること、心理系の職種の経験があることなどが条件にあるため、これから資格取得を目指す人にはほぼ対象外となる。

残るは、これから大学・大学院で科目を履修して受験資格を得るというAルートがあるが、社会人にとってはこのルートはとても条件が厳しい。

なぜなら、高卒の人は4年間、専門学校や短大、4年生大学の人は3年次編入学で、最低2年間大学で科目を履修しなければならない。

それに加えて大学院にも2年間通う必要があるので、最短でも4年間を確保することが条件になる。

これまでは、2年間のブランクを覚悟で仕事を辞めたり、貯金を貯めて大学院へ通って臨床心理士を目指す社会人もいたが、職歴の空白期間が4年間になるのは、キャリアの上でも金銭面でも大きな負担となる。

そこで、一つの考えられる手段として、通信制大学に編入学して大学に必要な科目を履修するという選択肢が挙げられる。

 

通信制大学・大学院から公認心理師になるには?

通信制大学に編入学する場合、3年次編入で最短で2年間で大学に必要な科目を履修することができる。

通信制大学は、①自宅学習で単位を修得できること(スクーリング科目や実習を除く)、②通学よりも授業料が安いことという2つの大きなメリットがあるので、社会人にとっては仕事をしながら科目の履修も可能になる。

ただし、現状では公認心理師に対応したカリキュラムを組んでいる通信制大学は少なく、科目を履修するのに条件を設けている大学もある。

そこで、2021年9月現在で公認心理師に対応している通信制大学を比較してみた。

 

放送大学

出願期間4月入学:11月下旬~3月中旬
10月入学:6月中旬~9月中旬
費用入学金:24,000円(全科履修生)
授業料:1単位5,500円
卒業までに必要な学費 3年次編入学:445,000円  1年次から入学:776,000円
メリット
  • 大学に必要な科目25科目のうち、「心理学実験」「心理演習」「心理実習」を
    除く22科目はインターネット配信を利用して学習できる
  • 「心理実習」の実習施設は、放送大学が用意してくれる
  • 実習中に、千葉県本部の宿泊施設を安価で利用できる
注意点
  • 履修科目に含まれている「心理演習」「心理実習」を受講するには、1次、2次
    選考試験に合格する必要がある(受講者定員30名)
  • すべての必要な科目が設置されるのは2022年予定
  • 他大学で習得した単位を「大学における必要な科目」として読み替えることは
    できない

参考URL:公認心理師の資格取得を目指す方へ – 放送大学
https://www.ouj.ac.jp/hp/purpose/sikaku/psychology/kounin.html

 

聖徳大学

出願期間4月入学:12月下旬~4月下旬
10月入学:7月上旬~10月下旬
費用入学金:30,000円(全科履修生)
授業料:初年度は約190,100円(入学金含む)、それ以降の年は約139,000円
卒業までに必要な学費 3年次編入学:489,100円 1年次から入学:823,100円
メリット夏期・冬期・春期と土日の中からスクーリングに参加する日を選ぶことができる
注意点「心理実習」の実習先は自分で見つけなければならない

参考URL:公認心理師対応カリキュラム – 聖徳大学通信教育部
https://www.seitoku.jp/tk/lp/k_shinrishi/

 

京都橘大学

出願期間第1期 10月下旬~11月下旬
第2期 1月上旬~2月上旬
第3期 2月下旬~3月下旬
費用入学金:30,000円(正科生)
授業料:年間280,000円
※公認心理師指定科目「心理実習」の受講には科目履修料100,000円が必要
メリット医療分野の教育に強く、行動神経科学領域についても学べる
注意点
  • 医療分野の教育に強く、行動神経科学領域についても学べる
  • 市のマーケティング調査や企業との連携により、さまざまな分野の演習や実習が
    受けられる

参考URL:公認心理師-たちばなエクール
http://echool.tachibana-u.ac.jp/course/lp_qualification.html

 

なお、上記の情報は2021年11月現在の情報のため、入試日程や授業料は変更される可能性がある。

詳しくは大学のウェブサイトで確認してほしい。

また、大学院については今のところ、東京福祉大学・大学院通信教育課程のみが公認心理師対応カリキュラムを用意している。

ただし、通信とはいえ450時間以上の実習を行うこと、修了までに最低3年以上かかることなどが条件となっている。

 

まとめ

心理やカウンセリングの名がつく資格はいくつも存在しているが、民間資格では臨床心理士、国家資格では公認心理師が公的にもっとも信頼と評価を得ている。

有資格者なら適切な支援ができるとは限らないが、実績も資格もない人の話では、なおさら信用されづらい。

特に公的機関である学校のスクールカウンセラーや、医師の指示で保険適用のもとでカウンセリングをおこなう心理士の場合、公認心理士資格の需要は今後高まっていくことが予想できる。

ただし、この資格は現状では社会人にとって不利な条件が多すぎる。

事実、昨年度の大学院入試では、社会人の受検者が例年より少なかったという話もある。

公認心理師法は今後改正していく余地があると思うが、今のところ考えられる資格取得の選択肢として、通信制大学の活用は検討しても良いだろう。

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