学校や職場のメンタルヘルスに対する関心が高まっている昨今では、心理学に興味をもつ人や心理系資格の取得を目指す人も少なくない。
心理系の資格としては「臨床心理士」は人気があり、資格取得や指定大学院入試対策の予備校も存在する。
それに加えて2017年、国家資格として新たに「公認心理師」が誕生して、2018年から各大学でも公認心理師を目指すカリキュラムがスタートしている。
「公認心理師は国家資格だから必要になる」「臨床心理士はいずれなくなるのではないか?」などの声を聞くこともあるが、この二つの資格は似ているようで違う部分も多く、混乱を招きかねない。
そこで、本記事では両者の詳細な違いを分析してみた。
なお、公認心理師の資格取得の方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事がおすすめ。
臨床心理士とは
臨床心理士は1988(昭和63)年に認可が始まり、心理職の専門家として広く一般に浸透している。
市役所の支援課や児童相談所、スクールカウンセラーや精神科病院などの心理職は、これまでおもに臨床心理士の有資格者が担ってきた。
特徴は以下のとおり。
名称 | 臨床心理士 |
業務内容 | 1. 臨床心理査定 心理テストや観察面接を通じて、個々人の独自性、個別性の固有な特徴 や問題点の所在を明らかにし、援助方法を検討する。 |
2.臨床心理面接 クライエントの特徴に応じて、さまざまな臨床心理学的技法を用いて心 の支援をする。 |
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3.臨床心理的地域援助 地域住民や学校、職場に所属する人々の心の健康や地域住民の 被害の支援活動や、心理的情報を提供したり提言する。 |
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4.上記1~3に関する調査・研究 心の問題への援助を行っていくうえでの知識や手法を確実にするため、 臨床心理的調査や研究活動を実施する。 |
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資格の種類 | 民間資格 |
更新 | 5年ごと |
医師との関係 | 必要に応じて連携・協力しながらクライエントの支援を行う。 |
受験資格 | ●指定大学院(1種・2種)を修了し、所定の条件を充足している者 ●臨床心理士養成に関する専門職大学院を修了した者 ●諸外国で指定大学院と同等以上の教育歴があり、修了後の 日本国内における心理臨床経験2年以上を有する者 ●医師免許取得者で、取得後、心理臨床経験2年以上を有する者 他 |
引用元:
臨床心理士資格認定協会 臨床心理士の専門業務
http://fjcbcp.or.jp/rinshou/gyoumu/
臨床心理士のメリット
- 心理系の資格としての歴史と知名度がある
- 大学の専攻が何であっても、大学院で所定の条件を満たせば受験資格が得られる
- 規則の上では、医師とは協力関係にあり、対等な立場にある
臨床心理士のデメリット
- 民間資格のため、保険診療が適用されない
- 5年に一回の更新が必要
- 公認心理師の価値が高まった場合、臨床心理士だけでは応募できない求人が増える可能性がある
公認心理師とは
公認心理師は2017年に公認心理師法が施行されて以来、大学でも対応したカリキュラムが整備されてきている。
日本ではじめての心理系の国家資格ということで、心理職者の間で話題になっている。
特徴は以下のとおり。
名称 | 公認心理師 |
業務内容 | 1. 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析 する。 |
2. 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談及び助言、 指導その他の援助をする。 |
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3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導 その他の援助を行う。 |
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4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報を提供する。 | |
資格の種類 | 国家資格 |
更新 | 更新制度なし |
医師との関係 | 心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治医があるときは、 その指示を受けなければならない。 |
受験資格 | ●大学において心理学等に関する科目を修め、かつ、大学院において 心理学等の科目を修めてその課程を修了した者等 ●大学で心理学等に関する科目を修め、卒業後一定期間の実務経験を 積んだ者等 ●主務大臣が上記に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると 認めた者 |
引用元:
厚生労働省 公認心理師 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
令和2年度診療報酬改定について
https://www.jacpp.or.jp/document/pdf/2020housyukaitei-kaisetsu.pdf
公認心理師のメリット
- 心理系の唯一の国家資格として、今後価値が高まっていく可能性がある
- 一定の条件を満たせば、カウンセリングに保険が適用される
- 公認心理師を対象にした求人が増えていく可能性がある
- 更新の必要がない
公認心理師のデメリット
- 多くの場合、大学と大学院の両方で所定の単位を取得する必要がある
- クライエントに主治医がいる場合は指示を受けなければならないなど、医師との関係は対等とはいえない
- 今後どのように制度が変更していくか、予測がしづらい
臨床心理士と公認心理師の比較
二つの資格の違いを考察すると、今のところ臨床心理士・公認心理師どちらかの資格があれば応募できる心理職求人が多いようだが、今後もし民間資格の臨床心理士の重要性が薄れてしまった場合、どうなるか予測できない。
その一方で、医師との関係は臨床心理士が「連携・協力」なのに対して、公認心理師は、クライエントに主治医がいる場合は「指示を受けなければならない」とされている。
公認心理師がおこなうカウンセリングに保険が適用されるには、「小児科または心療内科の医師の指示」「3ヵ月に1回程度、医師がカウンセリングを行う」などの一定条件が課せられていることから考えても、医師に対する立場の低さが示されている。
また、公認心理師の業務には「調査・研究」が記載されていないことからも、臨床心理士との立場の違いが感じとれる。
それに加えて、資格取得までにかかる金銭的・時間的な労力も公認心理師の方が大きい。
引用元:厚生労働省-公認心理師-4. 受験資格等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
上記の表を参照すると、専門職の経験者や平成29年以前に大学院で科目を履修した人を除くと、ほとんどの人は大学+大学院で新たに科目を履修する区分Aのルートをたどることになる。
これは特に、すでに大学を卒業して働いている社会人にとっては、時間と費用の両面で厳しい条件といえる。
一方で、臨床心理士の場合は、すでに大学を卒業している社会人であれば、大学院の2年間のみで受験資格が得られるので、公認心理師よりは負担が少なく済むだろう。
臨床心理士と公認心理師、どちらの資格を取るのが良い?
前述したことを踏まえて考察すると、これから大学・大学院に進学する高校生や浪人生の場合には、公認心理師に対応したカリキュラムがある大学で必要単位を履修し、大学院に進学して臨床心理士と公認心理師の受験資格を得るのが無難だと思われる。
一方で、すでに大学や大学院を修了しているが、必要単位や経験がなく特例措置が認められない社会人の場合は、判断が難しい。
公認心理師の受験資格を得るには、大学に編入学して2年間+大学院で2年間の合わせて4年間を費やすA区分に該当する人が多いと思われるが、そのためには仕事を辞めることや、最低4年分の学費の工面のことも考えなければならない。
現状では、臨床心理士の資格のみでも求人はあるということ、二つの資格の間に優劣はつけづらいことなどを考えると、将来希望している勤務先によっては公認心理師はなくても良いのかもしれない。
例えば、教育機関である学校のスクールカウンセラー、医師が現場を担っている病院のカウンセラーなどを目指すのであれば、公認心理師はこれから重要視される可能性がある。
一方で、個人開業やNPOの相談員、就労支援機関の職員などの場合は、資格がどの程度問われるかわからない。
最後に、公認心理師だけ取って臨床心理士の資格は取らないという選択肢もあるが、臨床心理士の資格には世間への認知度という強みがある。
臨床心理士の名称は一般に広く知られているが、公認心理師のことは知らない人も多い。
これから公認心理師の認知度も上がっていくと思われるが、現状では臨床心理士の資格も取得しているに越したことはない。
費用面でも、学部と大学院で公認心理師に対応したカリキュラムを履修するのであれば、臨床心理士の資格取得を同時に目指したからといって、そこまで大きな負担にはならないだろう。
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