障害者雇用の現実について、経験者の視点から解説

障害者採用の現状

これまで10年間くらい一般企業の障害者枠と特例子会社、一般枠での就労を繰り返してきたので、今回はそれぞれの違いや採用後の環境、求人の変化について感じたことをシェアしてみる。

 

 

法定雇用率と助成金制度

国は障害者の雇用促進に向けた法律を定めていて、一定の条件を満たしている企業は一定数以上の障害者を雇う(法定雇用率を満たす)義務がある。

2018(平成30)年4月から、この障害者雇用義務に精神障害者が加わり、法定雇用率も引き上げられた。
さらに、2021(令和3)年3月には、以下のように再度引き上げられることになった

 
事業主区分法定雇用率
令和3年2月まで令和3年3月1日以降
民間企業2.2%    ⇒2.3%
国、地方公共団体等2.5%    ⇒2.6%
都道府県等の教育委員会2.4%    ⇒2.5%

 

引用元:厚生労働省-法定雇用率の引き上げについて
https://www.mhlw.go.jp/content/000694645.pdf



雇用率の対象となるのは、原則として障害者手帳を取得している人。
あまり知られていないけど、以前は都道府県の障害者職業センターなどの判定機関で、知的障害の判定書を交付された人も雇用率や助成金の対象になった。今はわからない。

2021年の改正により、従業員数43.5人以上の民間企業の事業主は障害者を雇用しなければならないことになった。

障害者の雇用状況によって、事業主は助成金をもらうか、もしくはペナルティを負うことになる。

 

 

障害者就労の今後

障害者自立支援法の施行(2006年)、発達障害者支援法の改正(2016年)、障害者雇用の義務化(2018年)など、法律が次々制定され、メディアの啓発効果もあって障害者を取り巻く環境はここ10年余りでかなり変わった。

法定雇用率が改正されて就労しやすくなるという人もいるけど、必ずしも良い方向にばかりは進まないと思う。

雑誌やテレビで発達障害やうつ病に関する番組が取り上げられるようになったことで、認知度が広がると同時に、精神科に通院する患者の数も増えた。

現在、障害のある公立小中学生のうち、通級指導の対象となる生徒の数は10万9千人近い。

障害と一言で言っても、一人一人の持ってる能力や背景は異なり、長年引きこもっていて就労経験のない人がいれば、大企業で長年勤務してきた人もいる。

雇用率が引き上げられても障害者の数も何倍も増えたのなら、結局は少ない求人の奪い合いになるので、仕事に就けない人はいつまでも就けない。

実際、ハローワークで求人検索をしてみるとわかるとおり、障害者求人は一般に比べて求人数が圧倒的に少なく、その少ない求人は東京や大阪などの都心に集中している。職種も事務職や販売・清掃業などが多く、全体的に給料も安い。

専門職や給料の高い職種に応募する場合、企業は健常者と同レベルの仕事ができる人材を要求するから、欠勤の心配や配慮の仕方がわかりづらい精神障害者よりも、身体障害者の方が採用されやすい。

もし精神障害者や発達障害者を積極的に受け入れている企業だったとしても、能力や経験がある応募者の方が有利なのは変わらないから、今後は「障害者雇用で希望職種に就ける人」と「障害者雇用で希望していない職種にさえなかなか就けない人」の2極化が進んでいくと予想している。

 

 

障害者枠で就職活動をする際のポイント

障害者枠で求人を見つける際のポイントや、就職につなげるために気をつけたいことを、個人的な見解で挙げてみた。


求人票から対象者を読み取る
求人票の応募条件や経験・資格欄を見て、自分が当てはまっているかどうかで判断する。例えば、発達障害者でコミュニケーションが苦手だと自覚している人が、応募要項に「高いコミュニケーション能力があり、関係機関と円滑なやり取りができる人」とか書いてある職種に応募しても、落ちる確率が高い。

会話しなくてもできるような仕事なら、そこまでコミュニケーション能力は要求されない。

配慮する点に「電話応対なし」「エレベーター、手すりあり」「通院の配慮あり」などと書かれている場合、事業主は精神や知的よりも身体障害者を求めている可能性がある。


会社のウェブサイトを見る
企業のサイトに障害者雇用の実績や環境について書かれていることがある。知的障害者の割合が多い会社なら、身体や精神は対象としてないかもしれないし、何十人も精神障害者を雇用している実績があれば、精神で採用されやすいかもしれない。


スキルを身につける
資格があっても未経験だと採用されづらい。資格もないとなおさら採用されない。

これからは、小中学生で障害の診断をされて、学校や支援機関と相談しながら早いうちから将来のことを考え、資格やスキルを身につけていく人たちも増えていくだろうから、できるだけ希望職種に就くのに有利な資格やスキルは身につけておいた方が良い。

精神・発達障害者向けな求人だと、最近だとウェブ制作や画像編集、翻訳などの職種が増えてきたという感覚がある。
ウェブ制作の場合、良質なサイトを作れるスキルやデザインのセンスがあれば評価されやすい。英文翻訳の求人の場合、最低TOEIC800点以上を要求されることが多い。

求人数の多い一般事務職の場合だと、Excelの関数がどの程度使えるかは面接でよく聞かれる。


自分のことを説明できるようにしておく
障害者の雇用実績が少ない企業の場合特に、どのような配慮をしたら良いのかわからないということと、体調の悪化や欠勤など、採用したあとに問題が起こらないかどうかを心配している。

かといって、センシティブな話題でもあるので、採用担当者も障害の内容について踏み込んで聞きづらいという側面もある。

面接や書類を送付する際に、自分の症状や不得意なこと、配慮してほしい点などをできるだけわかりやすいように伝えられると、企業の側の不安も解消されやすく、採用につながりやすい。

できれば、不得意なことや体調面の不安がある場合でも、「こういうふうに工夫できれば改善できる」「こういう配慮があれば問題が少なくなる」という解決策が提案できるとより良い。

 

 

まとめ

最後に、雇用率と同じく重要なことに「定着率」がある。

実際、障害者の職場定着率は健常者に比べてかなり低いというデータがある。

理由の一つとして、本人が自分に障害があることへの葛藤が大きかったり、体調不良で働ける状態にないことなどがある。

それは働く中で自信や生活の安定を得て解消されることもあるけれど、逆に悪化してしまうケースもある。

一つ目の理由と関連して、企業の側に障害者を受け入れる体制が整っていないということも挙げられる。

仕事のスピード、他者との協調性や専門的な技術のレベルなど、求められるものは職場や職種によって異なるので、例えば短い時間内に決められた量の納品物を納品しないといけない職場の場合、仕事のスピードが遅いのは大目に見てもらえないかもしれない。

同じ一般事務職でも、一人でパソコンに向かって作業する時間が長い職場もあれば、チームで協力して色々な種類の業務をこなす職場もある。後者の場合、人と関わることや協調性に不安がある人にとってはストレスが大きいかもしれない。

自分と企業の条件がマッチしているかも事前に検討すべきポイントになってくる。

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