IQテストは現在、主に知的障害と発達障害を診断する際に使用されている。
特に近年は、幼児から成人まで発達障害を疑い知能検査を受ける人が増えてきた。
知能検査自体は20世紀初期から開発され、様々な批判も起こってきたが、現在では世間の目にどのように映っているのだろうか?
発達障害の当事者の中には、測定結果に表れた数値に強い関心を示す人もいるが、知能指数に関する議論は今なお続いている。
おそらく検査を受ける際や結果が明らかになったときには、誤解を招かぬよう担当の心理士や主治医から説明があると思うが、事前に知能検査の歴史や種類について知っておくのも良いだろう。
ここでは、知能検査の歴史と種類、誤解や問題点についてまとめてみた。
知能検査の歴史
知能ということばに対する概念は時代によって異なるが、現在では「脳神経系の機能として生じる”心”のうち、知的活動に関する側面」(引用元:2009,下山)という認識が一般的だろう。
つまり、目や耳から入ってきた情報を整理する、理解する、考える、情報に基づいて行動する、集中するなどの能力をいう。
知能検査は、フランスの心理学者ビネーが授業についていけない子どもを判別し、特別教育を提供するために開発した1905年に始まる。
この考え方は現在の日本の通級指導や特別支援教育にも通じるところがあるかもしれないが、ビネーの研究が英訳されてアメリカへ輸入されていくうちに、ビネーの考えに反して軍人の採用や移民の規制などに利用されてしまう。
しかし、ビネーの知能検査の特徴は「検査を受ける個人が集団の中でどの程度の位置にいるかを評価する」という相対評価で、その点では現在行われている検査も変わりはなく、ビネーの知能検査の影響を受けている。
1930年代に入ると、ウェクスラー式知能検査が開発され、成人用、学童向け、幼児用に分けられた。
ビネーの知能検査では、「知能が高ければ知的作業に優れている」という一次元的な考えで捉えられていたのに対して、ウェクスラー式では「知能は様々な能力で成り立っている」という多角的な見方が反映されている。
その後、ウェクスラー式検査は改訂を重ね、日本でも鈴木ビネー式や田中ビネー式知能検査が開発された。
知的障害とIQの関係
知的障害の判定の際には、IQの数値が基準のひとつとして挙げられる。
知的障害は、そのIQの数値に応じて軽度(IQ50~70)、中等度(IQ50~35)、重度(IQ35~20)、最重度(IQ20未満)に区分される。
療育手帳所持者の多くは、幼児期のうちに発達検査などで障害が発覚し、昔でいう養護学校や特殊学級、今でいう特別支援学校などに所属している。
しかし、知的障害者は軽度の割合が最も多く、本人も周囲も気づかないまま成人して就業しているものや、中には社会に適応できないまま引きこもり化したり、軽微の犯罪を繰り返して刑務所に入ることで飢えを凌ぐものもいると聞く。
成人してから療育手帳を取得するのは難しく、いくつかの審査項目を通る必要があるが、そのうちのひとつとして重視されるのがIQ検査の数値だ。
先に述べたようなIQの区分、つまりIQ70を下回ると知的障害の範囲に該当する(地方自治体ごとに基準は多少異なる)。
発達障害とIQの関係
発達障害の診断の際に使用される検査としては、ウェクスラー成人用知能検査(WAIS)とその児童用であるWISCが有名で、精神科で検査を受けることができる。
WAISは言語を用いた課題に回答する言語性IQ(VIQ)と作業課題を行う動作性IQ(PIQ)、その総合である全体IQの3つを算出することができ、WAIS-Ⅲ以降では、言語理解・知覚統合・作動記憶・処理速度という4つの群指標も知ることができるようになった。
発達障害の場合はIQの高低というよりは、それぞれの群指標間のばらつきが診断する上での判断材料とされやすい。
自分も以前、WAISを2回受けたことがあるが、検査結果は自分の自覚している得意・不得意をかなり正確に数値化していた実感がある。
参考記事:ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を2回受けた結果
知能検査の種類
知能検査は海外で開発され、その後日本で改訂されたものや、児童や幼児用に作られたものなど、いくつかの種類がある。
知能検査で測定できることには限界があることから、数種類のテストを併用し、それぞれの成績を比較検討することが望ましいとも言われている。
有名な検査には、以下のようなものがある。
ウェクスラー式知能検査
先述のように、全IQ、言語性IQ、動作性IQの3つのIQと、4つの群指標を算出することができるので、自身の異なった領域の能力を可視化しやすい。
成人用(WAIS)、児童用(WISC)、幼児用(WPPSI)の3種類があり、WAISは現在、最新のWAIS-Ⅳが開発されている。
自分はWAIS-RとWAIS-Ⅲの検査を受けたが、精度は高いように思えた。
田中ビネー式知能検査
ターマンらの改訂知能検査法を元にして、日本の児童・青年に適した題材に作り変えたもので、100を超える問題が易しいものから徐々に難しいものへと上昇するように構成されている。
まず最初に被検査者の生活年齢に合った年齢級のテストから始め、その結果よくできればさらに上の年齢に進み、できなければ下の年齢に向かって誤答の一つもない年齢級まで行う。
田中ビネー式知能検査Ⅴでは、結晶性・流動性・記憶・論理推理という4領域の指数を算出することもできる。
K-ABC
カウフマン式知能検査の日本語版で、2歳6ヵ月~12歳11ヵ月が対象。
課題の達成・未達成が本人の能力によるものなのか、経験によるものなのかを区別することができる点が特徴的。
日本版KABC-Ⅱでは18歳11ヵ月まで対象年齢が拡大され、継次処理・同時処理・学習能力・計画能力の4つの指標を測定できる。
PVT-R絵画語い発達検査
3歳~12歳3ヵ月の幼児・児童を対象にしたテストで、語いの理解力を測定することができる。
知的発達の遅れや発達障害のある子どもを見分け、早期発見に繋げることが期待できる。
4つの絵の中から、検査者が言う単語に最もふさわしい絵を選択するという、わかりやすく短時間でできる手法を採用している。
知能検査の誤解と問題点
発達障害が注目され始めるとともに、ウェクスラー式をはじめとしたIQ検査も世間に知られていくことになり、当事者会などでも時々検査についての話題が挙がることがある。
しかし、IQ検査が本当にその人の能力を言い当てているのか疑問視する声は、検査が作られた当初から続いている。
検査を実施した時の被検査者の精神状態やモチベーション、検査を実施する環境によって成績は影響を受ける。
例えば、不安傾向のある人にとっては検査者と一対一で個室で行う検査は、緊張を伴い本来のパフォーマンスを発揮できなくなる要因になり得る。
検査項目によっては、持って生まれた能力というよりは、経験や学習によって培われる知識を問うような問題が含まれていることもある。
実際、自分が受けたWAISのIQ検査では、最初に受けたときと2回目に受けたときで全IQの数値に20くらい開きがあった。
検査を受ける人は過度に結果を信頼しすぎるのも考えもので、また検査者の方も被検査者の様子や回答の仕方、その他の情報も見逃さずに理解していく姿勢が求められる。
要するに、知能検査の結果だけで頭が良いとか悪いと考えることは、人の優劣をつけて蔑みの対象にしたり、本人にとって劣等感を植え付けられる危険性があるので注意しなければならない。
テストの結果は、あくまでも参考程度に留めるのが良いだろう。
参考文献
林潔・瀧本孝雄・鈴木乙史(2010).カウンセリングと心理テスト.株式会社おうふう
下山晴彦 編(2009).よくわかる臨床心理学 改訂新版.ミネルヴァ書房
戸田まり,サトウタツヤ,伊藤美奈子(2005).グラフィック性格心理学.株式会社サイエンス社
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