認知心理学とは、人の認知機能のしくみを研究する心理学の一分野で、心理学全体の中では比較的新しい分野であるが、現代では研究が盛んに行われている。
認知のしくみはコンピュータに例えられることもあって、人の脳はどのように外界から受けた刺激を処理したり、必要なときに取り出したりしているのかという構造に関心が寄せられた。
特に認知のしくみと記憶の関係は切っても切り離せないもので、記憶法に関する研究も試みられてきた。
そのうちの一つが「ペグワード法(鉤語法)」と呼ばれるものであるが、ペグワード法は誤って解釈されやすく、正しい方法で行わないと記憶する上で逆効果にもなり得るので、できるだけ詳しく解説してみる。
ペグワード法を使った記憶術
ペグワード法による記憶の手順は、以下の1~2のステップだけで終了するので、それほど煩雑ではない。
1.ペグワードを設定する
ペグワード法とは、記憶術の一種で、まず10語のカギとなる単語(ペグワード)と1~10の数字を結びつける。
ペグワードは数字と韻を踏む単語で、以下のように短くて覚えやすいものが望ましい。
- いち=いちご
- に=にんじん
- さん=さんすう
- し=シャッター
- ご=ごみばこ
- ろく=ろけっと
- しち=しちめんちょう
- はち=はちみつ
- きゅう=きゅうり
- じゅう=じゅうたん
英数字で覚える場合は、one=bun(菓子パン), two=shoe(靴), three=tree(木)…のように覚えても良い。
他サイトで数字と関連性のない単語を選んでいる例を見かけることがあるが、ペグワードはすぐに思い浮かべられるのが前提なので、韻を踏んでいる単語を割り当てる。
2.記銘材料を連想する
ペグワードを設定できたら、次に記憶したい単語とペグワードを結びつける。
例えば、以下のような「家電売れ筋ランキング1~10位」を覚えるとする。
- 扇風機
- 冷蔵庫
- テレビ
- 洗濯機
- 電子レンジ
- 掃除機
- エアコン
- 炊飯器
- ドライヤー
- 電気ストーブ
例えば1位の扇風機に対応するペグワードは「1=いちご」なので、扇風機に当たりながらいちごを食べている光景をイメージする。
2位の冷蔵庫なら、冷蔵庫に入っているにんじんを思い浮かべる。3位のテレビなら、テレビで算数のクイズ番組を観ている姿をイメージする…というようにイメージで覚えることで、ペグワードから記銘した単語を想起しやすくなる。
※注意すべきこと
ペグワードは必ず先に設定する。記憶したい単語に合わせてペグワードを設定しようとすると、ペグワードと単語の両方を覚えないといけないことになり、手間が増える上に想起しづらくなる。
できればペグワードは、一度設定したら「家電ランキング」であろうと「有名な文学作品の年代順」であろうと、どんな場面でも応用できるような、覚えていて当たり前なくらい身についているワードにするのが望ましい。
また、ペグワードはイメージで想起できるようにするものなので、「冷蔵庫の中ににんじんがあった」のように文章を暗記するのはNG。
ペグワードに関する考察
「中学生が好きな教科の順位」という括りで、実際に自分でこの記憶法を試してみたが、確かに順位を思い出しやすくなった。
なので、ペグワードは物事の順番を覚えたりするのに役立つかもしれない。
日常生活で応用するとしたら、これから訪問する場所の順番や仕事の手順とか、買い物で購入する品目を思い出すのに活用できるのではないだろうか。
ただし、ペグワードで想起する単語はすでに知っている単純なものが基本なので、新しく覚えた専門用語を思い出したり、長い説明文を覚えたりするのは不向きだと思われる。
例えば、「演繹的推理」「選言的三段論法」のような心理学の授業で勉強する専門用語を思い出そうとしても、イメージを結びつけるのも名称を思い出すのも難しい。
また、「演繹的推理法とは何か?」という説明を求められる問題を解くには、しっかりと意味を理解しておく必要がある。
なので、学校のテストや資格試験の問題を解く場面には向いていないかもしれない。
参考文献
森敏昭(1995)『グラフィック認知心理学』 サイエンス社
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