場面緘黙症に向いている仕事とは?今までの就労経験を通して考察してみた

5月は「場面緘黙啓発月間」ということで、今回は場面緘黙の人の「職業」に焦点を当てて考えてみた。

まず最初に注意点として、一人一人の得意・不得意や好き嫌いがあるので「この仕事が正解」というのはないと思っている。

なので、ここでは場面緘黙の症状である「特定の場面・状況で話せなくなる」という点を踏まえて、「極力人と話さなくてもできる仕事」を紹介してみる。

 

倉庫・工場

倉庫や工場の仕事は、基本的にルーティンワークで毎日決まった作業をするので、職場によってはコミュニケーションを要求される機会が少ない。

派遣会社に登録すれば、履歴書不要ですぐに派遣先の倉庫で働くこともできるので、面接でうまく話せないという人でも仕事に就きやすい。

 

では、実際にどのような環境で仕事をするのか?

過去にアマゾンの倉庫でバイトをしたときの経験では、初めの一週間は教育係の人について仕事を覚え、それ以降はひたすら広い倉庫内の棚にある商品をピッキングし、コンベアに流す作業を繰り返す。

朝礼で連絡事項を伝えられたら、あとはひたすら一人でカートを持って商品を収集し、時間になったら各自タイムカードを押して帰宅する。

商品が見つからなかったり、破損している場合などのイレギュラーなことが起きない限り、就業時間中、誰とも一言も会話をしなくても仕事ができる。

他の従業員とはまったく関わりがないので、職場の人間関係に悩まされることもない。

広い倉庫内を歩き回ってノルマのピッキング個数をこなす体力と、単調な作業が苦痛でない人にとっては、やりやすい仕事かもしれない。

 

一方、工場の派遣バイトをしたときには、担当者の指示に従って資材を運んだり、梱包する作業をおこなった。

このときは、工場内が広くて機械音や騒音も多かったので、遠くから大声で呼ばれて返事をしないといけない場面もあった。

その点、場面緘黙で声が出せない、後遺症で大きい声が出しづらいという人には負担があるかもしれない。

倉庫・工場のバイトは、職場によって扱っている商品がアパレルだったり、食品だったり、木材だったりと内容が違うのと、年齢層や性別も職場によって異なるので、自分に合ってそうな環境の職場を選ぶのがポイント。

今まで働いた職場では、フォークリフトを使って重い荷物や資材を運ぶような工場は10代後半~30代の男性が多く、服飾雑貨の出荷や梱包を行っている倉庫は若年女性と主婦が中心だった。

アマゾンの倉庫は年齢層はバラバラで、東南アジア系の外国人労働者も約1割いた。

 

 

翻訳

翻訳は、企業の求人に応募して社内で働く場合と、翻訳者を募集している個人と契約してフリーランスで働く方法がある。

フリーランスの場合、日本翻訳連盟Ameliaのような翻訳求人サイトや、クラウドワークスやココナラのようなスキルを売るサイトに登録して、案件を見つけることができる。

求人サイトを通して仕事を請け負うメリットとしては、自宅でメールのやり取りだけで仕事を進められるということと、契約条件の交渉や手続きを直接しなくても済むことなどが挙げられる。

会社に勤める場合でも、翻訳業は在宅ワーク可の職場もあるので、口頭でのコミュニケーションが少なくて済む環境で、一人で作業がしやすい。

 

翻訳の仕事をするには、目安としてTOEIC860点以上の英語力が挙げられている。

求人によっては、TOEIC900点もしくは英検1級を要求している企業もある。

また、翻訳経験2~3年を必須としているところも少なくない。

翻訳求人サイトには、たくさんの翻訳者が登録して、優良案件を奪い合っている状態なので、英語力だけでなく、ITや医療などの専門分野の知識や、英語以外の言語の翻訳もできればアピールポイントになる。

 

 

ウェブサイト制作・デザイン

翻訳業と同じく、ウェブサイトのコーディングやデザインも、クラウドソーシングを利用してネット上で仕事を受注することができる。

あるいは、自分のサイトの閲覧者や人脈を通じて仕事を請け負う人もいる。

いずれにしても、直接顧客と会わずにメールのやり取りだけで完結させることが可能。

会社に所属している人の場合、顧客と交渉したり、チームを組んで頻繁に打ち合わせをしている人もいるが、これは求人内容や職場によって差がある。

 

この職種は、htmlやcssを使ってサイトの骨組みを作る人、サイト内にプログラミングを実装する人、サイトのデザインを設計する人、顧客との交渉やチームをまとめるディレクターなど、色々な役割があるので、自分の得意分野があれば他者との差別化が図ることもでき、案件を獲得しやすい。

ウェブ制作の職業訓練校の講師の話では、「面接担当者は、設計図に従ってコーディングしかできない制作者よりも、『デザインができます』『プログラミングもできます』という制作者の方を採用したい」ということだった。

特に、デザインのセンスは勉強してすぐに身につくものでもないと思うので、センスが伝わるようなクオリティの高いポートフォリオサイトを作ってアピールすることも効果的。

 

 

ネット監視オペレーター

世間の認知度は低いが、ネット監視はインターネットの掲示板やSNSの投稿を監視をする仕事。

具体的には、2ちゃんねるやmixi、ツイッターのようなコミュニティサイトを24時間体制で監視して、不適切な画像や個人情報、犯罪予告の書き込みがあれば削除したり運営に通報する。

基本的にはパソコンに向かって、監視画面とずっとにらめっこしている仕事なので、他の人と会話する頻度も少ない。

マニュアルさえ覚えてしまえば、あとは単調な作業が何時間も続くので、基本的な文章読解力さえあれば仕事内容も難しくない。

長時間持続して投稿を監視できる集中力がある人、ミスが少ない人にはおすすめ度が高い職種といえる。

 

ちなみに、こういう一人で作業する割合の多い職種は、人付き合いや会話が苦手という人が応募して来やすい職種でもあるので、対人関係上の不安がある人、挫折経験がある人には合うかもしれない。

 

 

ポスティング・交通量調査

ポスティングは、一軒家やマンションにチラシを投函する仕事で、人と会話する機会はほぼゼロに近い。

過去に学習塾と飲食店でこのバイトをしたときには、塾の受付スタッフと、飲食店の店長からチラシを受け取るとき以外は、人と話す機会はまったくなかった。

時々、チラシを投函しようとしたときに、家主やマンションの管理人に見られて声をかけられることがあったが、基本的に外に人がいる家には投函しないようにしていた。

一枚1円とか歩合制の場合は給料が安くなってしまいがちだが、今までのバイト先は時給制だったので、コンビニバイトと同じくらいは貰えた。

 

交通量調査のバイトは、交差点の周辺に椅子を置いて座りながら、交差点を渡る人の数をチェックする。

一人でやる仕事でスキルも要らないが、単調で時間は長く感じるかもしれない。

また、外でやる仕事の場合、夏の猛暑や冬の寒さ、雨や雪などの天候の影響を受けるのがデメリットといえる。

 

 

IT関係職種

プログラミングは、ウェブ制作や翻訳業と同じくネット上で案件を獲得して、在宅で自分で稼ぐことができる職種の一つ。

顧客から仕事を請け負う以外にも、スマートフォン用のアプリを開発して課金や広告で収益を得ている人もいる。

 

倉庫バイトやネット監視、ポスティングは比較的誰でもできるスキルの要らない仕事な反面、代わりの人が見つかりやすく、給料も低くなりがちというデメリットがある。

その点、プログラミングは、スキルアップしてより高給を稼げるチャンスもある。

 

 

障害者枠での就労

職種という枠から多少脱線するが、障害者枠での就業という選択肢もある。

場面緘黙症単体では難しいかもしれないが、他の不安症やうつ病、発達障害などの症状と併せて、精神障害者保健福祉手帳の申請ができる。

手帳があれば、障害者専用求人に応募することができるので、面接で場面緘黙の症状や配慮してほしいことを伝えれば、仕事内容を調整してくれるかもしれない。

例えば、電話応対をなしにしてもらったり、業務のやり取りは口頭ではなくメールにしてもらったりなど。

ただし、やはり障害者枠で就業する場合も、口頭でのやり取りをあまり必要としない職場を選ぶか、会話以外のコミュニケーション方法について、代替案を提示できるようにすると、より良いのではないかと思う。

 

 

まとめ

ここで挙げてきた仕事は、あくまでも「人と極力話さなくてもできる仕事」に力点を置いているので、場面緘黙症の人でも上記の仕事が合わない人もいると思う。

一番良いのは、自分が本当にやりたいと思う仕事ややりがいを感じられる仕事が良いのではないかと思うので、上記の職種は参考程度にとどめてほしい。

 

特に、最近ではテレワークが注目され始めていることもあるので、アイディア次第で仕事の幅も広がってくる。

例えば、場面緘黙症の当事者で心理職に興味がある人は少なからずいるようだけれど、従来のように心理士としてカウンセリングルームや学校の相談室で相談を受けるには、場面緘黙の症状が弊害になるのではと、心配になる人もいるだろう。

しかし、近年ではインターネットのチャット相談や、アプリを使った心理療法なども取り組まれ始めているので、今までとは違った方法で相談者と携わることもできるかもしれない。

 

今後もっと仕事の選択肢の幅が広がっていけば良いと思う。

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